製造業のRAG活用|図面・手順書・トラブル記録をAIに検索させる手順
製造業のRAG導入で、図面・仕様書・作業手順書・過去のトラブル記録をAIに検索させる仕組みを整理します。どの資料から入れるか、精度が出ない資料の特徴、現場が使う形にするまでを解説します。
中田 純平 — ツナイデ・ムスブ
熊本市 / AI 実装スタジオ
結論——製造業のRAGはトラブル記録と手順書から入れると精度が出る
製造業のRAGは、過去のトラブル記録と作業手順書から入れると精度が出やすいです。図面やCADデータは中身を文字で読み取りにくく、後回しにするほど失敗を避けられます。
RAG(社内の資料をAIに読ませ、その中から答えを探させる仕組み)は、全社の資料をまとめて入れるものではありません。まず1つの工程で、答えがはっきり書いてある資料だけを入れて試すのが近道です。用語の意味はAI・DXの用語集にまとめています。
この記事で分かること
- どの資料から入れると精度が出やすいか
- 入れても精度が出ない資料の見分け方
- 現場が実際に使う形にするまでの手順
先に結論だけ持ち帰るなら
- 入れる順番はトラブル記録→手順書→仕様書→図面の順です
- 画像スキャンした紙は、文字が読めないため精度が落ちます
- 現場はスマホで使うため、チャットから聞ける形にすると定着します
RAGとは何か——社内資料をAIに検索させる仕組み
RAGは、社内の資料をAIに読み込ませ、質問に対してその資料の中から答えを探して返す仕組みです。ChatGPTのような一般のAIと違い、自社の手順書やトラブル記録を根拠に答える点が特徴です。
一般の生成AIは、学習していない社内のことを聞くと、それらしい嘘を混ぜて答える場合があります。RAGは自社の資料を根拠にするため、根拠のない答えを減らせます。
検索とRAGの違い
従来のファイル検索は、キーワードが一致するファイルの一覧を返すだけです。中身を開いて読むのは人の仕事でした。
RAGは、質問の意味を読み取って該当箇所を要約して返します。「A材で穴が広がる不良の対処は」と聞くと、過去の記録から対処内容を抜き出して答えます。
製造業でRAGが効く場面
- ベテランしか知らない設備の癖を、新人が聞けるようにする
- 過去の不良対応を、当時の記録から即座に引ける
- 手順書のどこに何が書いてあるか探す時間を減らせる
人手不足で1人あたりの負担が増える現場ほど、知識を聞ける相手を仕組みで用意する価値が出ます。
どの資料から入れるか——精度が出やすい順に並べる
入れる順番は、答えが文字で書いてあり、更新頻度が低い資料からが基本です。いきなり全資料を入れると、古い情報と新しい情報が混ざり、答えが濁ります。
下の表は、資料ごとの入れやすさと精度の出やすさを整理したものです。
| 資料 | 入れやすさ | 精度 | 最初に入れるか |
|---|---|---|---|
| 過去のトラブル・不良記録 | 高い | 高い | まず入れる |
| 作業手順書・標準書 | 高い | 高い | 次に入れる |
| 仕様書・規格書 | 中 | 中〜高 | 3番目 |
| 検査基準・判定基準 | 中 | 中 | 3番目 |
| 図面・CADデータ | 低い | 低い | 後回し |
| 手書きメモの写真 | 低い | 低い | 入れない |
① トラブル記録から入れる理由
トラブル記録は「症状」と「対処」が対になっており、質問と答えの形に近いです。RAGが最も力を出しやすい資料です。
過去の不良対応をAIが引けるようになると、同じ不良で毎回ベテランを呼ぶ手間が減ります。まず直近2〜3年分から入れると扱いやすいです。
② 手順書は最新版だけを入れる
手順書は改訂版が複数あると、AIが古い版を根拠にする恐れがあります。入れるのは最新の1版だけにします。
旧版はフォルダを分け、RAGの読み込み対象から外します。版数の管理があいまいな現場ほど、この整理が先に必要です。
③ 図面を後回しにする理由
図面やCADは、寸法や公差が線と記号で表現されており、AIが文字として読み取れません。無理に入れても精度が出ず、入れた労力に見合いません。
図面は「どの部品のどの図面か」を文字で書いた台帳を作り、その台帳側をRAGに入れるほうが現実的です。
精度が出ない資料の特徴——入れる前に見分ける
精度が出ない資料には共通点があります。文字で読めない、版が混ざる、書き方がバラバラの3つです。入れる前に見分けると、無駄な作業を減らせます。
| 特徴 | 何が起きるか | 対処 |
|---|---|---|
| 紙をスキャンした画像PDF | 文字が読めず引けない | 文字起こししてから入れる |
| 手書きメモ・写真 | 誤読が多い | 入力し直すか対象外にする |
| 改訂版が複数残る | 古い情報で答える | 最新版だけ入れる |
| 略語・現場言葉が多い | 質問と一致しない | 用語の対応表を添える |
| 表やレイアウトが複雑 | 数値がずれる | 表を単純な行に直す |
スキャンした紙は文字にしてから入れる
画像として取り込んだPDFは、見た目は文字でも中身は絵です。**OCR(画像から文字を読み取る処理)**をかけて文字にしないと、RAGは中身を引けません。
古い手順書が紙しか残っていない現場では、OCRの精度を1〜2枚で先に確かめると安全です。
現場言葉は対応表で橋渡しする
現場では正式名称と違う略語が飛び交います。資料に正式名称しかないと、略語で聞いても引けません。
「現場での呼び方=正式名称」の対応表を1枚作り、一緒に入れると一致率が上がります。地域や班ごとの言い回しの差も、ここで吸収します。
更新されない資料は答えを古くする
入れて終わりにすると、資料は現場の実態から離れていきます。手順が変わったのに古い手順を答えると、かえって危険です。
誰がいつ資料を差し替えるかを先に決めます。担当と頻度が決まらない資料は、入れないほうが無難です。
現場が使う形にするまで——スマホのチャットから聞けるようにする
現場が使う形にする鍵は、普段使うチャットからそのまま聞けることです。専用の画面を新しく覚えさせると、現場は使いません。
工場の人はPCの前にいません。スマホかタブレット、または紙で仕事をしています。RAGの入り口を、すでに使っているLINEやチャットに置くと定着します。
入り口は「いつもの画面」に置く
AIのために新しいアプリを開き直す運用は、現場では続きません。すでに毎日開いているチャットの中で聞ける形にします。
**実際にあった例です。**営業代行会社・製造業・不動産業の複数社が、社内専用のRAGをDifyで構築しました。規模は非公開です。外部のサービスに社内資料を預けるセキュリティ不安があったため、社内向けに閉じた形を選んでいます。SlackやLINEなど普段のツールにつなげられる点が決め手でした。結果として、いつものチャットから社内情報を聞けるようになり、AIのために新しい画面を開き直す必要がなくなりました。
従業員20名の工場ならどこから手をつけるか
上の複数社は規模が非公開です。あなたの工場が20名なら、いきなり全社の資料を入れる必要はありません。
- 1工程・1種類の資料に絞る(例:検査工程のトラブル記録)
- 質問できる人を3〜5名に限定して試す
- 答えが合っているかを毎日確認する担当を1人置く
小さく始めて答えの質を確かめてから、資料と人を広げます。
答えには必ず根拠を表示させる
RAGの答えをうのみにすると、古い資料や誤読で事故につながります。どの資料の何ページを根拠にしたかを必ず表示させます。
根拠が出れば、現場が最後に自分で確かめられます。人が確認する工程を残す設計が、製造業では欠かせません。
関連記事:製造業でAIエージェントに任せられる業務と任せてはいけない業務
どの構成を選ぶか——クラウド型と社内閉じ型を比べる
構成は大きく2つです。クラウドのAIサービスに資料を預ける型と、社内に閉じて構築する型です。社内資料の機密度で選び分けます。
| 比較軸 | クラウド型 | 社内閉じ型 |
|---|---|---|
| 導入の手間 | 少ない | 多い |
| 社外への資料流出リスク | 契約で確認が必要 | 抑えやすい |
| 図面・仕様書の扱い | 規約の確認が要る | 社内で管理しやすい |
| 費用の型 | 月額課金が中心 | 構築費+運用が中心 |
| 向く資料 | 一般的な手順書 | 機密の図面・技術資料 |
機密の技術資料があるなら閉じた構成を検討する
図面や独自の加工条件は、社外に出せない資料です。取引先との守秘義務がある場合はなおさらです。
上の複数社が社内専用のRAGを選んだ理由も、外部に資料を預ける不安でした。機密度が高いなら、閉じた構成を候補に入れます。
手順書中心なら手軽なクラウド型から
機密性の低い一般的な手順書だけなら、クラウド型から試すほうが早いです。導入の手間が少なく、月単位でやめる判断もできます。
ただし利用規約で、入力した資料が学習に使われないかを必ず確認します。契約条件は年度で変わるため、最新の規約で確認してください。
費用はどう見るか——構築費と運用費を分けて考える
費用は最初の構築費と、毎月の運用費に分けて見ます。ツールの月額だけを見て決めると、資料整理の人件費を見落とします。
| 費目 | 内容 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 構築費 | 環境づくり・初期設定 | 一度きりか毎月かを確認 |
| 資料整理の人件費 | OCR・版の整理・対応表作成 | ここが一番重い |
| AIの利用料 | 質問1回ごとや月額の課金 | 質問数で変動する |
| 運用・更新 | 資料の差し替え担当 | 続けないと精度が落ちる |
具体的な金額は、選ぶツールと資料の量で大きく変わります。**この記事では特定ツールの金額は断定しません。**料金は各サービスの公式サイトで最新を確認してください。
一番重いのは資料整理の手間
RAGの費用で見落とされがちなのが、資料を読める形に直す人件費です。スキャンした紙の文字起こしや、版の整理に時間がかかります。
最初の1工程に絞ると、この整理の量を抑えられます。全資料を一度に整える必要はありません。
補助金は使えるか
AI導入やDXの費用は、補助金の対象になる場合があります。ただし要件・助成率・期限は年度で変わります。
必ず公募要領や公式の最新資料で確認し、採択は保証されない前提で進めてください。熊本の補助金は別記事に整理しています。
関連記事:熊本でAI導入する際、本当に使える補助金5つを表にしました
やめたほうがいい条件——RAGが向かない現場
RAGが向かない現場もあります。資料が紙しかない、版が管理されていない、更新する人がいない場合です。無理に入れると、古い答えで事故を招きます。
| 条件 | なぜ向かないか |
|---|---|
| 資料がほぼ手書きの紙 | 文字にする手間が重すぎる |
| 手順書の版が管理されていない | 古い手順で答える |
| 更新する担当を置けない | 精度が下がり続ける |
| 聞きたいことが図面の寸法だけ | 図面は文字で読めない |
まず資料を整える段階の会社
資料そのものがバラバラなら、RAGの前に資料を整える段階です。日報や記録のデジタル化から始めるほうが順番として正しいです。
最初の一歩の考え方は別記事に整理しています。
関連記事:中小企業がAIを入れる最初の一歩。どの業務から始めれば失敗しないか
AIの答えを最終判断にしない
検査の合否や設備の安全に関わる判断を、AIの答えだけで決めてはいけません。RAGは人が調べる時間を短くする道具です。
最後は人が根拠資料を見て判断する工程を必ず残します。この一線を越える使い方は避けてください。
製造業のRAG導入、まず1工程のトラブル記録を集める
今日できる行動は1つです。1つの工程の過去のトラブル記録を、フォルダにまとめることです。
RAGを入れる前に、答えのある資料が1カ所に集まっているかを確かめます。トラブル記録が散らばっているなら、まず集める作業から始めます。集まった資料の中身が文字で読めるかを見れば、RAGに向くかどうかが分かります。全社の話は、その後で十分です。
よくある質問
Q.製造業のRAGは、どの資料から入れると精度が出ますか
過去のトラブル記録と作業手順書から入れると精度が出やすいです。症状と対処が対になっており、質問と答えの形に近いためです。図面やCADは文字で読み取れないため後回しにします。
Q.図面やCADデータもRAGに入れられますか
寸法や公差は線と記号で表現され、AIが文字として読み取れないため精度が出ません。図面そのものより、どの部品のどの図面かを文字で書いた台帳を入れるほうが現実的です。
Q.社内の機密図面を外部のAIに預けるのが不安です
機密度が高いなら、社内に閉じて構築するRAGを検討してください。実際に外部への資料流出の不安から、社内専用の構成を選んだ会社もあります。クラウド型を使う場合は、資料が学習に使われないかを利用規約で確認します。
Q.現場のスマホからRAGを使わせるには何が必要ですか
すでに毎日使っているLINEやチャットの中から聞ける形にすると定着します。AIのために新しい画面を開き直す運用は、現場では続きません。答えには根拠の資料を必ず表示させます。
Q.従業員20名の工場でも導入できますか
導入できますが、全社の資料を一度に入れる必要はありません。1つの工程の1種類の資料に絞り、使う人を3〜5名に限定して試すと失敗しにくいです。答えの正しさを確認する担当を1人置いてください。
Q.RAGを入れる費用はいくらですか
構築費と月々の運用費に分かれ、選ぶツールと資料の量で大きく変わります。一番重いのは資料を読める形に直す人件費です。具体的な金額は各サービスの公式サイトで最新を確認してください。
この記事を書いた人
中田 純平
ツナイデ・ムスブ 代表 / 熊本市
熊本を拠点に、生成 AI と業務自動化を使った中小企業の業務改善を支援。 ツールの紹介だけで終わらせず、現場で回るところまでを対面で伴走している。 この記事の料金・機能は、公開時点の各公式サイトの情報をもとにしています。
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