AI導入2026-11-04 公開約 9 分で読めます

ベテラン作業を動画と音声からAIで手順書にする手順

製造業の属人化した熟練作業を、動画と音声からAIで手順書の下書きにする進め方を解説します。撮影前の作業分解、人が確認する工程、更新担当の決め方まで、5〜200名の工場目線で整理しました。

中田 純平 — ツナイデ・ムスブ

熊本市 / AI 導入支援・業務自動化

オフィスのデスクに置かれたノートパソコン

結論——ベテラン作業の手順書は動画撮影とAI下書きと人の確認で回す

ベテラン作業の手順書は、撮影前の作業分解、動画と音声の記録、AIによる文章の下書き、熟練者の確認、更新担当の決定という順で作れます。動画だけで暗黙知が再現できるとは限りません。コツや判断の基準は、撮った本人への聞き取りで言葉にする工程が必要です。

この記事では、困っている状況から原因、手順、AIが効く範囲、人が確認する工程までを順に書きます。紙とExcelの運用改善で足りる条件も示します。

この記事で分かること

  • 手順書が作られない、または古くなる原因
  • 撮影前にやる作業分解の切り口
  • AIが下書きできる範囲と、人が確認する工程
  • 更新担当と改訂ルールの決め方

先に押さえる判断軸

**手順書は作って終わりではありません。**更新する人を決めないと、半年で現場と合わなくなります。ツール選びより先に、誰が撮り誰が確認し誰が直すかを決めてください。

ベテラン作業が属人化する3つの原因

属人化は、手順が文字になっていないこと、作る時間がないこと、直す担当が不在なことで起きます。原因を分けると、打ち手が変わります。

① 手順が頭の中にしかない

熟練者の作業は、手の動きと判断が一体になっています。「この音がしたら締めすぎ」といった基準は、本人も言葉にしていません。紙の手順書があっても、肝心の判断部分が抜けている状態が多く見られます。

② 手順書を作る時間が取れない

現場は日々の生産で手一杯です。文章を書き起こす作業は後回しになります。清書に半日かかると分かると、着手自体が止まります。

③ 更新する担当がいない

設備や材料が変われば手順も変わります。直す人が決まっていないと、古い手順書が放置されます。現場は古い手順書を信用せず、結局ベテランに口頭で聞くという形に戻ります。

撮影前にやる作業分解——何を撮るか決める

撮影の前に、作業を工程ごとに区切ってください。分解せずに回し続けると、後で見返せない長尺動画が残ります。

作業を区切る4つの切り口

下の切り口で、1つの作業を小さな単位に割ります。

切り口 区切りの例 撮影の狙い
工程の節目 段取り/加工/検査/片付け 全体の流れをつかむ
判断が入る点 良否の見極め、調整 言葉にしにくい基準を拾う
失敗しやすい点 位置合わせ、締め具合 新人がつまずく箇所
道具の持ち替え 工具・治具の交換 手元のアップが要る箇所

分解表を1枚作っておく

撮影前に、工程名と撮る角度と確認したい点を1枚の表にします。この分解表があると、撮り直しが減ります。音声で補いたい質問も、先に書き出しておきます。

撮る順番を決める

生産を止めずに撮れる工程から始めます。短い工程を2〜3本撮って、進め方に慣れてから長い工程に進みます。

動画と音声の撮り方——スマホで足りる条件

撮影は、多くの工程でスマホのカメラで足ります。専用機材より、手元が映る角度と音が拾える環境を優先してください。

スマホで足りる場合と足りない場合

条件 スマホで足りる 追加の機材が要る
明るさ 作業灯で手元が見える 暗所・無影灯の下
手元の固定 三脚や台に置ける 移動しながらの作業
音 本人の説明が聞こえる 騒音が大きい工程
距離 50cm〜1mで映る 微細な加工の拡大

撮りながら本人に話してもらう

手を動かしながら、判断の理由を声に出してもらいます。「今ここを見ている」「この手応えで止める」といった言葉が、後の手順書の核になります。動画と音声をセットで残すことが、暗黙知を言葉にする第一歩です。

顔や個人情報が映る点に注意する

作業者の顔、取引先名の入った図面、製品の型番が映る場合があります。公開範囲を決めてから撮影してください。

AIが下書きできる範囲と、できないこと

AIは、動画の音声を文字に起こし、手順の下書きを作る作業に効きます。ただし判断の正しさは保証しません。

生成AI(文章や要約を作るAI)に音声の文字起こしを渡すと、手順の箇条書きに整形できます。用語の統一や言い回しの調整も下書きできます。仕組みの基礎はAI・DXの用語集で確認してください。

AIに任せてよい作業

作業 AIの下書き 人の確認
音声の文字起こし 得意 専門用語の誤変換を直す
手順の箇条書き化 得意 順番と抜けを確認
文章の言い換え 得意 現場の言葉に戻す
判断基準の数値化 苦手 本人に聞いて埋める
安全上の注意 苦手 必ず人が追記

AIが間違える箇所

AIは、音声が不明瞭な部分を推測で埋めます。事実と違う手順を自然な文章で書く場合があります。この現象をハルシネーション(もっともらしい誤り)と呼びます。数値や安全の記述は、必ず人が照合してください。

関連記事:AIのハルシネーション対策|人が確認する工程と任せてよい業務の条件

下書きは「たたき台」として扱う

AIの下書きは完成品ではありません。熟練者が赤を入れる前提の、たたき台として使います。

熟練者が確認する工程——どこを人が見るか

手順書の正しさは、作業した本人が確認して初めて担保されます。AIの下書きをそのまま配ると、現場で事故や不良につながります。

確認してもらう3つの点

  1. 手順の順番と抜け——工程が飛んでいないか
  2. 判断の基準——良否の見分け方が書けているか
  3. 安全と禁止事項——やってはいけない操作が明記されているか

口頭の補足を書き足す

動画に映らないコツは、本人への聞き取りで引き出します。「なぜその順番か」を一言添えると、新人の理解が進みます。映像で見える動きと、言葉で補う理由の両方をそろえてください。

確認は短時間で区切る

熟練者の時間は貴重です。1回の確認を15〜20分で区切り、工程ごとに分けて見てもらうと負担が減ります。

更新担当と改訂ルールを決める

手順書は、更新する人と直す頻度を決めて初めて使い続けられます。作って配るだけでは、半年で現場と合わなくなります。

役割を4つに分ける

役割 担当の例 やること
撮影 若手・改善担当 分解表に沿って記録
下書き 事務・改善担当 AIで文字起こしと整形
確認 熟練者・班長 手順と基準を点検
更新 工程リーダー 設備変更時に改訂

改訂のきっかけを決めておく

設備の入れ替え、材料の変更、不良の発生時に手順書を見直します。改訂日と版数を手順書に記載することで、現場が最新版を見分けられます。版管理の考え方は下の記事が参考になります。

関連記事:製造業の図面の版管理で手戻りを防ぐ|最新版確認と旧版の扱い

探せる場所に置く

手順書は、現場のスマホやタブレットから探せる場所に置きます。社内Wikiや共有フォルダに、工程名で見つかる構成にします。社内に蓄積する作り方はLarkで新人が自走できる社内Wikiを作るで解説しています。

紙・Excelで足りる条件と、デジタルに移す境目

手順書は、紙やExcelの運用改善で足りる場合があります。ツール導入を前提にせず、自社の条件で判断してください。

紙・Excelで足りる条件

  • 手順書の本数が10本以下で、変更が少ない
  • 見る人が同じ建屋の少人数
  • 動画を配らず、写真と文字で足りる作業

デジタルに移す境目

項目 紙・Excelで足りる デジタルへ移す
本数 10本以下 数十本以上
動画 使わない 動画を見せたい
見る場所 1拠点 複数拠点・外出先
更新頻度 年数回 月に数回
検索 探せる量 検索性が要る

手順書が増えて探せなくなったら、検索の仕組みを検討します。図面やトラブル記録をまとめて検索させる方法は製造業のRAG活用|図面・手順書・トラブル記録をAIに検索させる手順で整理しています。

手順書作成でつまずく5つの失敗パターン

失敗の多くは、撮影前の準備不足と、更新担当の不在で起きます。着手前に潰してください。

よくある失敗と原因

失敗 原因 対策
長尺動画が見返せない 作業分解をしていない 工程ごとに短く撮る
判断基準が書けない 音声を残していない 撮りながら説明させる
AIの誤りに気づかない 人の確認を飛ばした 熟練者が必ず点検
半年で古くなる 更新担当が未定 改訂のきっかけを決める
現場が見ない 探せない場所に置いた 工程名で検索できる場所へ

一度に全工程をやろうとしない

全作業を同時に手順書化すると、現場が疲れて止まります。効果が大きい1工程から始めると続きます。新人がよくつまずく作業や、担当が1人しかいない作業を優先します。

完璧を求めない

手順書は80点で配って、現場の指摘で直します。最初から完成版を狙うと、公開が遅れて使われません。

動画・音声データの取り扱いと保管場所

撮影した動画と音声には、図面や型番や顔が含まれます。保管場所と公開範囲を先に決めてください。

入力してよい情報を線引きする

AIに文字起こしを渡すとき、外部サービスへ送る情報の範囲を決めます。取引先名や図面番号が含まれる場合は、社内ルールで扱いを定めます。線引きの作り方は生成AIに入力してよい情報とだめな情報が参考になります。

保管場所を決める3点

  1. 誰が見られるか——公開範囲を工程リーダーで管理
  2. どこに置くか——社内の共有場所に集約
  3. いつ消すか——古い版の扱いを決める

外部委託する場合の確認

撮影や編集を外部に頼む場合、データの保管と削除の条件を契約で確認します。顔や図面が映る前提で、取り扱いを明記してもらいます。

ベテラン作業の手順書化、まず現状を1枚に整理する

今日できる一歩は、属人化している作業を1枚の表に書き出すことです。相談や外部委託の前に、この1枚があると話が早く進みます。

1枚に書く項目

  • 属人化している作業名
  • 担当できる人数(1人なら最優先)
  • 判断が入る箇所
  • 紙・Excelで足りるか、動画が要るか
  • 撮影・下書き・確認・更新の担当候補

この1枚ができたら、1工程を選んで短い動画を1本撮ってみます。進め方でつまずく点は製造業のAI導入でつまずく5つのパターンと原因で先に確認してください。

よくある質問

Q.動画を撮るだけでベテランの技術は再現できますか。

動画だけでは再現できない部分が残ります。手の動きは映りますが、良否の判断基準や力加減は本人の説明がないと言葉になりません。撮影しながら理由を声に出してもらい、聞き取りで補ってください。

Q.手順書の下書きはAIに任せて大丈夫ですか。

文字起こしや箇条書きへの整形はAIが下書きできます。ただし数値や安全の記述は誤る場合があるため、作業した本人が必ず確認してください。AIの下書きは完成品ではなく、赤を入れる前提のたたき台として扱います。

Q.専用のツールを買わないと手順書は作れませんか。

本数が10本以下で変更が少なければ、紙やExcelと写真で足ります。動画を配りたい、複数拠点で見たい、更新が月に数回ある場合にデジタル化を検討してください。ツール導入より先に更新担当を決めるほうが重要です。

Q.撮影はスマホで足りますか。

多くの工程でスマホのカメラで足ります。手元が映る角度と、本人の説明が聞こえる環境を優先してください。暗所や微細な加工の拡大、騒音の大きい工程では追加の機材を検討します。

Q.手順書を作っても現場で使われません。どうすればよいですか。

使われない原因は、古くなる放置と、探せない保管場所にあります。更新担当と改訂のきっかけを決め、版数と改訂日を記載してください。現場のスマホから工程名で探せる場所に置くと利用が進みます。

Q.撮影した動画に図面や顔が映る場合、どう扱えばよいですか。

保管場所と公開範囲を撮影前に決めてください。取引先名や図面番号を外部サービスへ送る範囲は社内ルールで線引きします。外部に編集を委託する場合は、データの保管と削除の条件を契約で確認します。

この記事を書いた人

中田 純平

ツナイデ・ムスブ 代表 / 熊本市

熊本を拠点に、生成 AI と業務自動化を使った中小企業の業務改善を支援。 ツールの紹介だけで終わらせず、現場で回るところまでを対面で伴走している。 業務自動化の構築 14 社、研修登壇は累計 3,000 名以上。 この記事の料金・機能は、公開時点の各公式サイトの情報をもとにしています。

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